みなさん、こんにちは!
作業療法学科の池之上です。
今日は私が忘れられない患者様とのお話をさせていただきます。
私が作業療法士になって3年目の頃でした。一人の30代前半の女性患者Aさんが来院されました。
この患者さんは体に力が入らなく原因不明の病気を発症。病気自体は回復されていましたが、後遺症でかなりの筋力の低下が認められ、そのリハビリテーションを目的として受診されたのでした。
いつも4、5才くらいの娘さんを連れて来られていましたが、お母さんと主婦としての役目を果たしたいと本当に一生懸命作業療法に通っておられた姿を今でも思い出します。
作業療法で手の筋力アップと家事を行うための訓練が開始され、4カ月が過ぎて12月に入った頃、いつも一緒だった娘さんの姿が見えないことに気が付きました。いつもだったら待合室で退屈そうにしていた娘さんでしたが、ここ何週間か見かけていません。
Aさんに聞いてみるとAさんのお母さん、おばあさんに預けているとのこと。どうも家庭状況に大きな変化があったようで、Aさんの中には私が頑張って娘を育てていかないと、との思いが強かったのでしょう、リハビリへ取り組む姿勢も一層真剣さ加わっていました。
そして12月もクリスマスを前にしたある日、こんな提案をしてみました。「24日にここでケーキを作って娘さんにプレゼントしてみませんか。回復度合いを測るいい機会です」Aさんは最初不安がっていましたが、挑戦することになりました。作業療法室には機材や道具がないため、私が家から運んで当日を迎えました。
(実は私、料理は得意)ケーキ作りは土台となるスポンジケーキを一から作ります。卵白泡立て、小麦粉と混ぜての生地作り、オーブンで焼いている間にホイップクリーム作りやフルーツのカットなど、全てが手作りのケーキです。が、ただ一つだけAさんが知らない隠し味を準備していました。ご自宅に連絡して、お婆さんに娘さんを連れてきてもらっていたのです。そしてケーキを仕上げるときに、アシスタントとして娘さんを呼び入れました。Aさんは驚いていましたが、娘さんと本当に楽しそうにケーキの飾りつけをしていた時、ふと手が止まりました。「先生、こんなに嬉しそうな娘の顔を見たのは久しぶりです。娘のためと思って一生懸命リハビリを最優先していましたが、本当はずいぶんと寂しい思いをさせてたんですね」と涙を流されました。
出来上がったケーキを箱に詰め、リボンを結んだ袋を用心深く抱えている娘さんと笑顔のAさんを病院の入り口で見送って、その後姿が見えなくなった後、機材と道具を持って帰る(オーブンレンジが重い!!)のにため息をつきながら、ちよっとサンタクロース気分を味わいました。同時に作業の持つ力、患者様の心と身体を元気にするだけでなく、関わった人や周りの人の心も元気にしてくれる力を再認識したのでした。
(※写真は本文とは関係ありません。)
作業療法士は心と身体のリハビリテーション職です。
患者様の心に寄り添い、患者様のことを考え、患者様の生きがいを見出せるよう支援します。
この記事をきっかけに作業療法士に興味を持っていただければ嬉しく思います😊